「作」と書いて、「ざく」と読む。ちょっと変わった名前の日本酒があります。
その名前からガンダムファンの間で人気に火がつき、今ではその名を知らない日本酒ファンはいないほどです。
さらに数々の賞を受賞している「作」は、伊勢志摩サミットの乾杯酒として提供されるなど品質面でも高評価を得ています。
しかし「作」を造る三重県鈴鹿市の清水清三郎商店は、かつて300石ほどにまで生産が落ち込んでいた時期がありました。
そこからの復活劇はこのお酒の力があってこそ。
今回はそんな「作」の魅力をご紹介していきます。
清水清三郎商店とは?
清水清三郎商店は、1869年に鈴鹿市若松村で創業した酒蔵です。
創業者である清水清三郎氏は、漁網や漁船を所有する「網元」の経営者で、そこで蓄えた資金を元に、当時景気が良かった酒造業界に参入したのではないか、とされています。
創業を開始した鈴鹿市は、鈴鹿山脈の伏流水や、伊勢平野の米がたくさん手に入るとともに、お酒を江戸や大坂へ輸送するための海上交通も盛んでした。
また、三重県は日本酒の酒米として有名な「山田錦」の親株である「山田穂」の発祥の地ともされていて、かつては鈴鹿市にもたくさんの酒蔵があった地域だったのです。
あらゆる面で酒造り適した土地でしたが、今では鈴鹿市に残る酒蔵は清水清三郎商店の1つのみとなってしまいました。
多くの酒蔵が、日本人の日本酒離れによる需要の縮小の波に逆らえなかったのです。
その影響を受け、清水清三郎商店も全盛期には6000石以上あった製造量が、一時は300石ほどまで生産が落ち込んでしまいました。
「作」が酒蔵を救った
そんな窮地に陥った酒蔵を救ったのが「作」です。アニメ作品の「機動戦士ガンダム」の中に、ザクと呼ばれるモビルスーツが登場するのですが、ガンダムファンが「作(ざく)」という名前のお酒にいち早く反応し、注目を浴びました。
「作」の需要拡大に伴い、蔵元では年々生産量を増やし、700石近くまで生産量を回復することに成功。それに合わせて造り期間も拡大し、8月を除いてほぼ通年で酒造りを行う、四季醸造体制を整えました。
四季醸造は温度を適切に管理する必要があるため、給水管理や米の管理が難しくなります。しかし、このおかげで年間通して新酒を蔵出しできるようになったのです。
思わぬきっかけで「作」の人気が出て生産を立て直した清水清三郎商店。
作が一時のブームで終わらず、数々の賞を総なめにするまでになったのは、飲む人に清水清三郎商店が作るお酒の味や品質が、きちんと評価されたからでしょう。
酒蔵のこだわりと「作」の味わい
清水清三郎商店のホームページにはこのような杜氏からの言葉が載っています。
「酒造りに関しては、できた酒の良し悪しは別にして、ひと手間を惜しむことなく自分自身が納得できることだけのことをするように心がけています。そのときは最善の判断をしたつもりでも、結果的に間違っていることはあるかもしれませんが、あのときもう少し手をかけていれば、という後悔だけはしたくないです。」 出典:清水清三郎商店ホームページ
酒造りへの熱い思いが感じられますね。
清水清三郎商店は、年間を通じて安定した味ではなく、天候や季節によって変化する味わいを目指しています。
天候や季節に応じて、その時にできることはすべて行い、最高品質に仕上げるという清水清三郎商店の丁寧な酒造りによって、国内外から高い評価を受けているんですね。
特にこだわっているのは麹造り。
中でも“いい蒸し米”造りを大切にしていて、手で触れて水の温度を確認し、量りで重量を確認しながら米の浸水時間を調整する職人技を駆使しているのです。
このように造られた「作」は、全体的にお米本来の華やかな香りとスッキリとした味わいが特徴になっています。
地元・鈴鹿山脈の伏流水と伊勢平野の高品質な米を贅沢に使用し、杜氏の磨き上げた技術で醸した「作」はまさに極上の酒。
これまでもじわじわと人気を高めていた「作」ですが、伊勢志摩サミットでの乾杯酒にも選ばれ、各国の首脳に振舞われてからは入手困難になるほどのブームとなりました。
誰が飲んでも美味しく、親しみやすい味わいは、「ロングセラー商品」としてこれまでも、これからも受け継がれていくはずです。