リアス式海岸が美しい景色を成し、豊かな海の幸を育む岩手県三陸地方。古くから南部杜氏による酒造りが盛んで、気仙沼の「男山」、陸前高田の「酔仙」、釜石「浜千鳥」など多くの酒蔵を擁する地域です。
今回は、この三陸の地で100年以上にわたり酒造りを営み続けてきた「赤武(あかぶ)酒造」と、その蔵名を冠した新銘柄「赤武(AKABU)」についてご紹介します。
岩手の酒造「赤武」の歴史
岩手県大槌町にある赤武酒造は、1896年創業の酒蔵です。赤武酒造の代表銘柄「浜娘」は、長く地元の人々に親しまれ続けてきました。現在は5代目蔵元の古館秀峰さんと、秀峰さんの長男であり6代目の龍之介さんを中心に、老若男女の蔵人たちが力をあわせて個性的な日本酒を醸しています。
「浜娘」は、岩手県産の酒米「吟ぎんが」や「結の香」などを使用したやわらかく華やかな香りと、バランスのとれた飲み口が特徴です。また日本酒ばかりではなく、りんごや山葡萄、トマトなど岩手県産の素材を原料に使用したデザートのような甘いお酒「リカースイーツ」シリーズも人気です。
東日本大震災での被災と復活
2011年3月に起きた東日本大震災では、赤武酒造のある大槌町は津波により甚大な被害を受けました。酒蔵や事務所も壊滅状態で廃業も考えた秀峰さんでしたが、酒造りの仲間や「また浜娘を飲みたい」というファンの声に励まされ、再び「浜娘」を造ることを決意します。
しかし酒造りに必要な酵母は残っていましたが、蔵を再建することは困難だったため、県内のいくつかの酒蔵に酒造設備を間貸ししてくれるよう協力を仰ぎます。そして秀峰さんの熱意に賛同した盛岡市の「桜顔酒造」とともに2011年の酒造りを開始。震災から9ヵ月後の2011年12月に「浜娘」を無事に全国へ届けることができたのでした。
その後も酒造りを続け、震災から2年7ヶ月後の2013年秋、多くの人々の支援により盛岡市内に新工場「復活蔵」が完成し、現在はここで酒造りを続けています。
赤武を支える若き杜氏
2014年、東京農業大学で醸造を学んでいた長男の龍之介さんは地元岩手へ戻り、赤武酒造の杜氏に当時22歳の若さで就任します。全国最年少の杜氏として注目された龍之助さんが、学生時代に修行先で醸造した日本酒の味に手ごたえを感じた秀峰さんは、浜娘に次ぐインパクトのある新しい銘柄の立ち上げを龍之介さんに一任したのです。
そして親子二世代の杜氏が協力し合い完成したのが、凛々しい甲冑がデザインされた「赤武」シリーズ。コンセプトは「料理のすすむ酒、会話がすすむ酒」。酒造り一年目は、課題こそ残ったものの十分な仕上がりで、秀峰さんは合格点を出したそうです。
一年目の「赤武」は、この若き杜氏の挑戦を支持した約15店で取り扱われ、翌年以降も少しずつ特約店は増え続けています。そして毎年試行錯誤を繰り返しながら、その名は着実に全国へ広まりました。そして、酒造りも4年目に突入した「2017年度 岩手県新酒鑑評会」の吟醸酒部門で「赤武 純米大吟醸 結の香」は、最高賞の県知事賞題1位を獲得しました。
「浜娘」「赤武」…受け継がれていく伝統
このようにして「浜娘」の伝統が守られ、これからを担う「赤武」が誕生し日々進化を続けています。新しい蔵へ移り途絶えることなく醸され続けている「浜娘」も毎年改良が重ねられ「浜娘 純米大吟醸」は、数々の鑑評会やコンクールで金賞を受賞。深い味わいと華やかな香り、そして心地よい余韻に包まれ、冷やして飲むと味わえるふくよかな口当たりは魚や和食など料理との相性がとてもよいことも魅力のひとつです。